「老化は治療可能」が抗加齢の考え方
「老化」という現象は、今まで自然現象として仕方のないものと考えられていました。医師も、病気なら最新の知識や技術を駆使して治そうとしますが、老化による心身の衰えには「年齢が年齢だけに仕方ないですね」というしか術がなかったのです。「抗加齢医学」とは、それをあきらめずに、「老化は治療可能」という考え方を持った医学です。
近年の医学の進歩によって、「老化」のメカニズムが解明されはじめ、老化・加齢も「病気=弱点」と考える時代となってきました。抗加齢医学は、その老化のプロセスそのものをひとつの「病気」と捉え、他の病気同様、その原因を克服することで老化を治療することを目的としています。しかし、その治療法は「不老不死」を意味するものではありません。老化による心身の衰えを防ぎ、健康なままで人生を全うするための、健康長寿を目指す医学なのです。
歳の取りかたは人それぞれ、弱点も人それぞれです。100 歳を越えても、ガンも痴呆もなく自立して健康的な生活を営まれている方々を百寿者と呼んでいます。アメリカではニューイングランド州とジョージア州で大規模な百寿者たちを対象にした研究が行われ、日本では慶應義塾大学老人内科の廣瀬博士のグループが中心となっています。彼らは老化のスピードが遅いというわけではありません。身体全体が均質に老化しているのです。バランスがよく、「弱点」が少ないのです。
痴呆 (ボケ) 、精力低下、骨粗しょう症、生活習慣病 (肥満・糖尿病・高血圧・高脂血症・動脈硬化) などの弱点は、早いうちから克服しないと、結局それが命取りになってしまいます。ストレスや睡眠不足などは、加齢による身体の変化を加速してしまいます。老化の兆候といった弱点を見つけてあげて、早い時期から徹底的に対処することが重要になってきます。弱点を克服してゆけば、健康長寿への道が開けてきます。
抗加齢医学は、 (1) 老化のメカニズムの究明、 (2) アンチエイジング(老化度判定)ドックなどによる診断、 (3) 抗加齢医学に基づく医療の 3 つが主体となっています。抗加齢医療の指導や治療は、厚生労働省が掲げる「健康日本 21 」を実現させるための具体的・実践的な提案といえます。また、日本医師会が提唱する生涯保健事業の理念に合致しており、抗加齢医学の推進者として、かかりつけ医や産業医、学校医の役割は今後ますます重要になると考えられます。一般にもなじみの深い「人間ドック」や「定期検診」などの健康診断、日常的に行われるあらゆる疾患の予防という概念は、医療の中では「予防医学」のカテゴリーに属していますが、そうした意味で、抗加齢医学は、高齢化社会がいよいよ現実のものとなる 21 世紀の「究極の予防医学」と言うことができるでしょう。
30歳の身体こそ、理想とする状態
オプティマル・ヘルス現在アメリカでは「オプティマル・ヘルス」という考え方が出てきています。オプティマル・ヘルスというのは、それぞれの年齢において心も身体ももっともイキイキとした「最善の健康」状態のことを意味します。30 代なら 30 代として最善の健康を維持し、40 代は 40 代としてのベストの健康状態を目指すわけです。50 代、60 代、70 代、80 代、90 代の人も同様です。
それぞれの年齢で健康の偏差値があるとすれば、さしずめ偏差値 70 以上といったところでしょうか。90 代になったときに 90 代としての最高の健康状態を保つためには、20 代、30 代の若いころから努力しなくてはなりません。若いころの延長として高齢期があるわけですから、高齢になっていきなり健康になるというのは無理というものです。
抗加齢医学では、老化度を判断する値として、オプティマル・ヘルスを保つための目標値 (オプティマル・レンジ) を提唱しています。普通の人間ドックならば、「あなたは標準範囲に入っています」という結果で満足するかもしれませんが、抗加齢医学では、さらに上の状態を目指していきます。現在、日本人に見合ったオプティマル・レンジは「 (健康な) 30 歳男女の正常範囲」と設定されています。
「 30 歳」という年齢を設定した理由は、人間の一生の中で 30 歳が身体だけでなく精神的にも最も安定した時期と考えられるからです。社会的な見地から見ても、仕事や家庭内でも頼りにされ、それに応えるだけの気力・体力が最も充実した時期。少しくらい疲れても、肌の状態が悪くなっても、わりとすぐに回復したのではないでしょうか。身体にとってはその頃が充実期と言えるのです。加齢による老化の進行を食い止め、あるいは逆行させて、その充実期を保ち続けることこそ、抗加齢医学の目的なのです。


